2013年12月10日火曜日

中国の台頭が揺るがす「先進国の常識」:将来に自信が持てなくなってきた西側諸国

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JB Press 2013.12.10(火)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39340

中国の台頭が揺るがす「先進国の常識」
好き嫌いではなく巨視的な目で関係改善を

 先日、中国で日中関係を研究する専門家と会食する機会を得て、彼らが真剣に今後の日中関係を心配していることを知った。

 中国国内メディアではもっぱら日本批判を展開する彼らだが、私的な会食の場では、その見方は至って冷静であり、真剣に日中関係を見つめている。
 何よりも、彼らが日本国内の出来事について入念に情報を集め研究しており、日本の内情をほぼ完璧に理解していることに驚いた。

 それに対して、日本人の中国研究者は中国に関するミクロの情報を集めるだけで、中国という国の全体像をマクロ的に描き切れていない。
 中には、感情論を助長する論者も少なくない。

 日中の専門家に対しては、まず個人的な嗜好、すなわち、相手国が好きか嫌いかでこれからの日中関係を論じないように進言したい。
 重要なのは、グローバルな大局に立って論を展開することである。

 いかなることも表と裏の両面がある。
 弁証法的な見方でバランスを取るべきである。
 さもなければ、その偏った見方により世論がミスリーディングされてしまう恐れがある。

拙速に関係改善を急ぐな

 今の日中関係は決していい状態とは言えないが、両国の国民にとっては何の不自由もない。
 当面はこのまま自然の流れに任せた方がよいのではないだろうか。

 日中関係は友好的でなければならないと思い込んでいる人は少なくない。
 無論、真の友好関係を築くことができれば、それに越したことはない。
 だが、少数の人が無理して作った友好関係は真の友好関係ではない。
 そして、一部の団体のメンバー同士が個人的に仲良くなっても、両国民全体は必ずしも友好的な関係にはならない。

 今、日中両国の前には2つの障害がある。
★.1つは歴史認識の違いである。
★.もう1つは尖閣諸島や東シナ海の領有権を巡る対立
である。

 ここで結論を先取りすれば、
日中関係の改善は当面望めないだろう。

 本来ならば、歴史認識の違いは両国の歴史の専門家に任せて史実を解明し、共通認識を得る努力をすべきである。
 だが、残念ながら両国の政治家は、いずれも自国にとって都合の悪い史実を直視しようとせず目をそらそうとする。

 それだけではなく、歴史認識の違いを自らの権力の維持に利用するため、ナショナリズムの台頭を助長する材料にしている。
 その結果、史実が冷静な姿勢で解明されることはなく、往々にして感情に流され激しい口論となる。

 歴史認識の違いが両国の政治家のメンツの問題であるとすれば、領土・領海の領有権の問題は両国の国益が直接かかわっている。

 これについて、双方は一歩も引けない状況にある。
 領土・領海の領有権について簡単に白黒をつけることはできない。
 それには複雑な歴史的な背景がある。
 尖閣諸島の場合、無人島を自国の領土とする宣言を日本と中国のどちらが先に行ったのか、今のところ双方が納得いくような明確なエビデンスが提示されていない。

 ただし、一方が歴史的なエビデンスを提示することで 2国間の領土・領海の領有権をめぐる対立が解決されることはめったにない。
 国力の差がある国同士の場合、強い国の方がその主張を押し通すことがほとんどである。

 国力が拮抗する国同士が争った場合は、話し合って共同開発するか、領土を折半することが少なくない。
 例えば中国とロシアは旧ソ連時代に国境をめぐって対立し、戦争をしたこともあったが、問題は解決されなかった。
 2004年、両国は係争地を二等分することで合意し、中露国境協定が結ばれた。

 尖閣問題では、係争を認めるよう日本に求める中国と、それを認めない日本の態度が完全に対立し、それを解決しようとする雰囲気と環境はほとんど見られないと言ってよい。
 今の日中関係は、当面改善されずに続くと考えられる。

■高度成長期の日本の防衛費の伸びを中国人研究者が指摘

 先進国の間では、中国の軍事予算の伸びが速すぎるとの懸念が根強い。
 本来ならば、一国の軍事予算はその国の内政事項であり、外国政府がとやかく言う話ではない。
 中国経済の成長率が世界で最も速いことを考えれば、軍事予算の拡大は理解できないことではない。

 見方を変えれば、世界で2番目の経済大国である中国がロシアから中古の航空母艦を買ったことから、中国の実際の軍事力の一斑(いっぱん)を見ることができる。

 先般、北京で開かれた北京・東京フォーラムで中国社会科学院日本研究所の李薇所長は、
 「中国の軍事予算の伸びが速すぎるといつも日本人に指摘されるが、私が調べたところ、かつて日本も高度成長期において日本の防衛費の伸びは1年を除けば、全部2ケタの伸びだった」
と反論した。
 この事実は、おそらく60代以下の日本人のほとんどは知らないはずである。

 では、中国の軍事予算のどこが問題なのだろうか。
 個人的には、規模ではなく、透明性を欠いている点に問題があると思われる。

 もしも規模が問題だとすれば、世界で軍事予算が最も大きいアメリカが一番に非難されるべきだろう。
 専門家によれば、軍事予算が2位から20位までの国を合計しても、アメリカの一国の軍事予算には及ばないと言われている。
 日本にとってアメリカが脅威とならないのは互いに同盟国だからである。
 日中、米中、米露、日露は互いに同盟国ではないため、脅威と見なされる。

■中国の台頭で見直される「国際的な常識」

 日中対立が先鋭化しているのは、言うまでもなく中国の国力の強化が背景にある。

 日本にとって北朝鮮は仮想敵であるが、現実的な脅威にはならない。
 北朝鮮ではミサイルの発射実験が行われているが、精度を欠くために間違って飛来することが心配されているだけである。

 それに対して、中国はすでに世界2番目の経済大国である。
 中国は経済力が弱い時代には海洋資源を探査し、それを利用することはできなかったが、ようやくそれができるようになった。
 しかし、中国が拡張戦略に出ると、必ず先進国の利権とぶつかってしまう。
 先進国が作った「国際的な常識」に阻まれて、中国がそのままおとなしく引き下がることはありえない。
 換言すれば、中国など新興国の台頭により、先進国の間で「国際的な常識」となっているルールの再構築が求められるようになってきた。

 今後、中国をはじめとする新興国の力はますます大きくなっていくだろう。
 歴史の流れを冷静に見つめるならば、先進国がこれから検討しなければならないのは中国をいかに封じ込めるかではなく、「国際的な常識」が見直される中でどれだけ自らの利権を手放せるかであろう。
 同時に中国が先進国とのネゴシエーションを実体験で学ばなければならないことは、言うまでもない。

柯 隆 Ka Ryu
富士通総研 経済研究所主席研究員。中国南京市生まれ。1986年南京金陵科技大学卒業。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。主な著書に『中国の不良債権問題』など。



JB Press 2013.12.11(水)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39413

将来に自信が持てなくなってきた西側諸国
(2013年12月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 西側諸国の定義とは何か? 
 米国や欧州の政治家たちは価値観や制度について語りたがる。
 しかし、この世界に住む何十億もの人々が重視するポイントは、もっとシンプルで理解しやすいところにある。
 彼らにとって西側諸国とは、この世界において、普通の人ですら快適な生活を送っている一角のことなのだ。

 不法移民が自らの命を危険にさらしてでも欧州や米国に入り込もうとするのは、自分も快適な暮らしがしたいという夢があるからにほかならない。

 ところが、西側諸国にはまだ人を引き寄せる魅力があるものの、西側諸国自身は自らの将来に自信を持てなくなっている。
 米国のバラク・オバマ大統領が先週行ったスピーチの内容は、大統領就任後では最も暗い部類に入るものだった。

 オバマ氏は、不平等の拡大と社会的流動性の低下について容赦なく指摘し、それらが
 「アメリカンドリームを、私たちの生活様式を、そして私たちが世界各地で支持しているものを根底から揺さぶる脅威をもたらしている」
と述べた。

■「子供の世代は親の世代より貧しくなる」

 調査機関ピュー・リサーチ・センターが今春に39カ国で行った世論調査で
 「あなたの国の子供たちは、その親の世代よりも豊かになれそうですか?」
と質問したところ、
★.米国では、子供の世代の方が豊かになれるとの回答は全体の33%にとどまり、貧しくなるとの回答が62%を占めた。
★.欧州の人々はもっと悲観的だった。
 子供の世代の方がそれ以前の世代よりも豊かになるとの回答は
 ドイツでは28%しかなく、
 英国では17%、
 イタリアでは14%、
 フランスに至っては9%
にとどまった。

 こうした西側諸国の悲観論と著しく対照的なのが途上国の楽観論だ。
 中国では82%、
 インドでは59%、
 ナイジェリアでは65%
の回答者が、将来はさらに繁栄すると考えている。

 西側諸国の生活水準が下がっていくという話はホラにすぎない――。
 そう信じることができたらどんなにいいかと思う。
 残念なことに、一般の人々が真相に気づいていることはいろいろな数字からうかがえる。

 ブルッキングス研究所の研究員たちが調べたところによれば、労働年齢にある米国人男性の賃金は1970年以降、インフレ調整後ベースで19%下落しているという。
 所得階層の最上位5%の所得が急増したまさにその時期に、かつてアメリカンドリームの象徴とされた「ジョー・アベレージ」は転落の憂き目に遭っているのだ。

 これには保守派の政治家も懸念を覚えている。2016年の大統領選挙で共和党の候補になることを目指しているマルコ・ルビオ上院議員は、自分の両親はバーテンダーやメードというあまり高級とは言えない仕事をしながら「中流階級に入ることができた」と述べたうえで、今ではそういうことはもう不可能だと認めている。

 欧州における絶望感と不安感も、現実的な根拠に基づいている。
 将来の社会福祉・退職関連の給付金はこれまでほど手厚いものにはなりそうにないとの認識は特にそうだ。
 繁栄を脅かす圧力は、債務危機でひどく苦しんでいる国々では非常に強く、ギリシャやポルトガルなどでは賃金や年金が実際に減額されている。

 だが、比較的うまくやってきた欧州諸国ですら、生活水準を押し下げる圧力にさらされている。
 本紙(フィナンシャル・タイムズ)の調べによれば、英国の1985年生まれの世代は、その10年前に生まれた世代よりも高い生活水準を経験していない。
 これは過去100年間で初めてのことだ。

 西側諸国の中で最も成功している経済大国と称されることの多いドイツでさえ、「メルケルの奇跡」の恩恵は主に所得階層の最上位が享受している。
 現在の輸出ブームの基礎を築いた経済改革では、賃金の引き下げと社会保障給付の切り下げ、そして非正規従業員の採用拡大が進められていた。

■途上国の楽観論と西側の悲観論の背景にグローバル化の影響

 途上国における楽観論の台頭と西側諸国における悲観論の台頭との間には関連性がある。
 オバマ氏は先週のスピーチで、
 「社会契約は1970年代後半から綻び始めた
と指摘した。
 中国が国を開き始めたのも同じく1970年代後半のことだったのは、恐らく偶然ではあるまい。

 グローバル化の擁護者でさえ、今は大抵、グローバルな労働力の出現が西側の賃金抑制の一因になったことを認めている。
 欧州出身の筆者の友人数人は、
 保護主義――もっと言えばアジアでの戦争――が賃金の高い仕事を西側諸国に送り返してくれる
ことを夢見る人もいる。

 だが、実際には、グローバル化を推し進める技術的、経済的、政治的な作用を考えると、グローバル化の流れは決して本当の意味で後退することはないだろう。
 発展途上国で何億人もの人を貧困から引きずり出した経済トレンドを台無しにすることで西側諸国の生活水準を高めようとすることは、間違いなく道義的に怪しい。

 たとえ西側諸国が自国市場を閉鎖したとしても、ホワイトカラーの労働者を含む西側の従業員は次第に、
 多くの仕事はコンピューターやロボットの方が安くこなせることに気づくはずだ。
 実際、ロボットの進歩は遠からず、中国の組み立てラインの労働者をも脅かすことになる。

■西側の政治が急進化する恐れ

 生活水準の低下が続けば、西側諸国の有権者はどう反応するだろうか? 
 既に政治の急進化の兆候が見られ、米国でも欧州でもポピュリストの右派が勢力を伸ばしている。
 だが、今のところは、米国のティーパーティー(茶会)や欧州の国家主義的な政治運動が大国の中央政府を掌握する現実的な可能性があることを示す確かな兆しは見られない。

 また、グローバル化を巡るコンセンサスも持ち堪えているように見える。
 事実、世界貿易機関(WTO)は先週末、新たな国際貿易協定を模索する取り組みで突破口を開いたようだった。

 だが、新たな政治運動はまだ西側の既成政党を破る用意はできていないとはいえ、主流派の政治家は新しい経済環境に対応せざるを得なくなっている。
 格差の拡大は大西洋の両岸で、より再分配効果の大きい税制と最低賃金引き上げを求める圧力を高めている。

 西側の経済停滞があと10年続けば
――あるいは、考えたくもないが、
 再び金融危機が起きれば――、
 より急進的な解決策と政治家が出てくるだろう。

By Gideon Rachman
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